紫陽花の花 (http://sozai-free.com/)

 六月は、水無月と言います。新暦と旧暦の月名の違いを実感できる月です。水無月は、炎暑のため水源も涸れ果てて水が無い月、の意味とされますが、本来は、稲作を中心とした農作業を、みなし尽した月の、皆尽月(みなづき)、であったといわれます。

 雷鳴とともに稲の生育を助ける夕立が来るので、鳴神月(なるかみづき)とも言います。古代にあっては、稲妻は稲の夫(つま)を表わし神格化され、稲は稲妻をうけて結実すると信じられていました。神話の時代から稲作をもっとも重要視していた私たちの先祖が、農耕に関わる水や天候を気遣っていたことがうかがわれます。また、田植えの終わった田圃に水を湛えるので水月(みなづき)という説もあります。ほかに雅(みやび)な夏の呼び名の、蝉羽月(せみのはづき)、風待月(かぜまちづき)、涼暮月(すずくれづき)、常夏月(とこなつづき)、松風月(まつかぜづき)、夏越月(なごしのつき)、などとも言います。旧暦の水無月は、真夏の暑い太陽が照り付ける現在の七月に相当しますが、約三十日間の梅雨の時期を含むいまの六月に、旧暦の情緒のある月名を当てるのは不向きでしょう。

 西洋にはジューン・ブライトという言葉があります。六月のはじめに、ローマ神話に登場する神々の王ジュピターの妻で、結婚の守護神・ジュノーの祭りがあり、六月に結婚して翌年の春に出産することが幸せとされました。西欧の六月は真夏の訪れる前の晴れわたった爽やかな風景を想わせますが、梅雨どきの日本の六月は、国民の祝日も無い月です。

 月の始めの一日が必ず細い月の新月になる旧暦は、月の満ち欠けの周期をベースに一ヶ月としました。それに太陽の運行の一年を二十四等分して立春や夏至、冬至といった季節をかけ合わせたものです。月で毎日の日付けを、太陽で季節を知る仕組みです。しかしこれですと月の周期の一年と太陽年の長さにずれが生じるため、その調整に十九年に七度、五年に一度の割りあいで適当する月に閏月が設けられました。つまり旧暦では一年が十三ヶ月の年もあるのです。十三ヶ月になっても農耕に大切な季節は太陽が基本で変わりませんが、今年はその閏月がある年です。五月の皐月の次に閏皐月がくる年です。具体的には、いまの暦の六月二十三日から閏皐月となり、七月二十一日まで続きます。そして旧暦の水無月は七月二十二日から八月十九日までとなります。旧暦といまの暦のずれ、違いがよく分かります。旧暦では、今年は四ヶ月の長い厳しい夏が続きます。

天理市・大和神社の茅(ち)の輪 (Wikipedia)

 そして六月には、“夏越の祓え”があります。もともと旧暦でこのお祓いをして夏を越すところから、夏越の祓えと云われます。または名越の祓え、六月の大祓え、水無月大祓え、などともいいます。大祓えの大は、国家や社会を指し、大祓えは国民全体の公(おおやけ)の祓えを意味しますが、祓えとは、知らない間に心身についた諸々の穢れや罪科(つみとが)、災厄などを取りのぞくという日本の神道のみに見られる神事です。清浄さを重要視する神道で、穢れとは、「気枯れ(けがれ)」「気離れ(けがれ)」のことで、溌剌とした生命の耀きや霊的な強さを表す“気”が衰えた状態を、穢れと見たものです。気の衰退は、生命と日常生活の活気を奪うと思われていました。

 この祓えの起源は、古事記や日本書紀の神話のなかにあります。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が死後の世界の黄泉国で触れた汚穢を、筑紫の日向の檍原(あわぎはら)で禊祓(みそぎはら)えをして身を清めた故事に由来します。禊祓えの禊ぎとは祓えのひとつで、必ず水を使い、身体に付いた汚穢を削ぎ取るものです。

 大祓えは、大宝元年(七〇一)に官制や身分を定めた法制書・大宝令に、宮中の年中行事として決められています。天皇の仰せで、六月と十二月の晦日に、平安京宮城の正面にある朱雀門に、親王以下の諸臣・百官および男女の人たちを集め、国家が社会万民のために行なわれた神事だったのです。大祓えは社会に被害がおよぶような時には臨時にも執行されてきましたが、中世の応仁の乱(一四六七)でそれまでの宮中祭祀は、ほぼ途絶してしまいます。公的に行なわれなくなった大祓えは、水によって心身を清め、罪穢れを洗い流して海の彼方に祓いやる民間の習俗として転化し、あるいはものに託して雛流し、人形流し、病流しなど、各地でさまざまな風習に発展します。そして江戸時代の元禄四年(一六九一)六月に、朝廷祭祀として再興が試みられますが定着せず、明治四年に明治政府が旧儀復興を命じたことで、現在のような全国の神社での行事となりました。

 疫病を免れた蘇民将来の故事にならって災厄や疫病を免れるという茅の輪をくぐり、形代(かたしろ)ともいう人形(ひとがた)で身体をなで、息を吹きかけて穢れを移し、これを河川に流したり火で焚き上げたりするのが一般的です。大祓えを現在の六月・十二月の晦日ではなく、旧暦、または独自に八月などに行なっている神社もあります。

 今年は神社で大祓えをうけ、心身ともにさっぱりされてはいかがですか。

(奈良 泰秀 2009年6月)