日本文化の歳時記


月ごとに代表的な行事や風習を取り上げ、それらを生み出した日本の文化について解説していきます。

奈良泰秀 連載コラム 世界日報掲載(2009/1 ~ 2009/12)

 睦月  清浄な家で年神を迎える -お焚き上げは送りの祭り- 2009/ 1/4 掲載
 如月  節分は四季を分ける日 -希望の春を迎える祭り- 2009/ 2/1 掲載
 弥生  中国伝来の桃の節句 -お彼岸は日本独自- 2009/ 3/1 掲載
 卯月  釈迦の誕生祝う花祭り -全国で300超の神楽・郷土芸能- 2009/ 4/5 掲載
 皐月  中国では忌み慎む月  -邪気祓い、無病息災願う- 2009/ 5/3 掲載
 水無月 旧暦月名との違い実感  -夏越の祓えで穢れを除く- 2009/ 6/7 掲載
 文月  山開きなど行事多く  -伝統と習俗混じり七夕に- 2009/ 7/5 掲載
 葉月  根強い盆の風習  -贖罪の中元は盂蘭盆と習合- 2009/ 8/2 掲載
 長月  中国伝来の「重陽」・「月見」 -「望月」が転訛し「餅つき」に- 2009/ 9/6 掲載
10  神無月 元来は神を祭る月 -留守神に恵比寿神なども- 2009/10/4 掲載
11  霜月  日本の風土を象徴 -最も変化のある月- 2009/11/1 掲載
12  師走  冬至に無病息災祈る -1年の締めくくりの月- 2009/12/6 掲載

 

大注連縄で有名な福岡県の宮地獄神社

一月は、ふだんの月より多くの祭りや行事が見られます。地方に残る独特な祭りや風習は、日本の気候風土に合わせ、年月をかけて育まれて来ました。

日本は永い歴史を持つ国です。日本人の精神性や感性が形成された縄文時代を源流に、のちに中国や朝鮮から渡来して来た人たちが持ち込んだ文化が融合し、日本独自の信仰や習慣がうまれました。

昔に較べると正月風景もさま変わりしておりますが、正月への想いは昔も今も一緒です。

初詣は、最も盛んな正月行事です。古くは年籠りといって大晦日に神社やお寺にお籠りをしてから詣でる風習がありました。現在もお寺の除夜の鐘を聴いてから神社へ初詣をしますね。江戸時代には、その年の縁起のよい方角である恵方(えほう)に、吉方を掌(つかさど)る歳徳神(としとくじん)が鎮まるとされ、その方角の神社やお寺への“恵方詣で”が盛んでした。恵方や歳徳神の信仰は中国の陰陽道の影響に拠るものです。

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早春の梅

手紙の冒頭で、「立春とは名ばかりのきびしい寒さですが…」といった時候のあいさつを見受けます。二月は、暦の上では春ですが、まだ寒さが身にしみる季節です。しかし陰暦の名称の如月は、陽気が良くなりつつも寒さが残り、衣(きぬ)を更に着るので「衣更着(きさらぎ)」、時気が更に発達して来る「気更来(きさらき)」、春に向かい草木が更に芽吹き始める「生更来(きさらき)」、などの意味があるといわれます。新暦では寒い二月も陰暦の二月は現在の三月頃ですから、そのような表現も的(まと)を得ております。

日本で現在の太陽暦の使用開始は明治六年からで、それまでの基本は月の満ち欠けで日を読む暦法でした。でも、月が基準では日付と季節とのずれが生じます。そこで正確な季節をあらわす指標として考え出されたのが、太陽の運行を基に一年の長さを二十四等分した二十四節気です。

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長寿の霊木とされる桃の花

三月は春の息吹を実感する月で、弥生三月ともいいます。陰暦での弥生は現在の四月ごろですが、この春たけなわの時期は、萌えいずる草木がいよいよ生(お)い茂り盛んになることで「弥(いや)おい」といい、それが「やよい」になったといわれます。この月の別の呼び名には、花見月(はなみつき)、染色(しめいろ)月、桜月、季春(きしゅん)、桃月(とうげつ)、雛(ひいな)月、夢見(ゆめみ)月など、たくさんあります。

三月といえば、ぼんぼりに明かりを灯すひな祭り、桃の節句です。節句は節供(せっく)ともいい、ルーツは中国で、節は季節の変わり目のこと。一年の季節の変わり目に五つの節日(せちにち)を設け、その節目節目を無事に過ごせるよう邪気を祓い無病息災を願う行事が「五節供」となりました。五節供とは、一月・人日(じんじつ)、三月・上巳(じょうし)、五月・端午、七月・七夕、九月・重陽(ちょうよう)の節供をいいます。節供は季節の節目に供え物をするという意味もありますが、その時季の植物から生気をもらい、邪気を祓って長寿健康を願う行事でもありました。一月のみは一日が年の始めになるので七日に設定され七草の節供、三月・桃、五月・菖蒲、七月・笹、九月・菊と、当時薬用となる植物が選ばれました。

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満 開 の 桜

四月は春たけなわ、国中の花々の大部分が一斉に咲き乱れ、自然が華やぐとき。陽光の明るさが増し、人のこころも活動的になります。年度始めの月で、入学や入社や転勤など、新しい門出となる月です。四月の陰暦月名は卯月。陰暦十二ヵ月で花の名がついた唯一の月です。卯の花が咲く月という意味で、卯花月(うのはなづき)とも言います。

卯の花は晩春に白い花を咲かせますが、稲の苗や農作物の種を植えるので、植え月が“うづき”になったという説があります。卯月はいまの五月ごろで、ほかに乾月(けんげつ)、花残月(はなのこりづき)、夏初月(なつはづき)の別称もあります。花残月とは、山あいにまだ桜の花が咲き残る月のことです。

そして四月八日はお釈迦さまの誕生を祝う花祭り、潅仏会(かんぶつえ)があります。降誕会(ごうたんえ)、仏生会(ぶっしょうえ)、浴仏会(よくぶつえ)、ともいい、関西など地方によっては旧暦の日取りで行ないます。

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菖 蒲 の 花

五月は眼にしみる新緑が野山を蔽(おお)い尽くし、爽やかな心地よい風が初夏の風情を運んで来てくれます。野外の活動やハイキングなどの行楽には絶好の時期です。皐月(さつき)は、田に苗を植える早苗月(さなえづき)、または小苗月(さなえづき)の略といわれます。さつきのサは稲の精霊を意味することから皐月は神に稲を捧げる月、という説もあります。ほかに、橘の花が咲くので橘月、菖蒲月(あやめづき)、雨月、田草月(たぐさづき)、五月雨月(さみだれづき)、五月雨(さみだれ)で夜空に月を見ることが稀なので月見(つきみ)ず月(つき)、などとも言います。旧暦の皐月はいまの六月ころに相当します。この時期の月の出ない闇夜を五月闇(さつきやみ)と言いますが、月の運行を基にした旧暦での生活だった当時の人たちが、月に深い関心を持っていたことが偲ばれます。

五月には五節供の一つの、端午の節供があります。端午の端は“初め”の意味で、月の端(はじ)めの午の日のことを言い、五月とは限りませんでした。中国では二千年以上も前から月と日を重ねる重日思想があり、旧暦で牛の月は五月で、午(ご)が五に通じることから五月最初の五日を固定させて節日としたもの。三月の上巳・桃の節供もそうです。中国では現在でも旧暦の行事が一般的ですが、日本では新暦に置き換えられました。

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